リーダー  高田彰二 (神戸大学理学部 助教授)
  藤墳佳見 (神戸大学理学部 博士課程学生)

 ポストゲノム時代の今日、ゲノムがコードしている遺伝情報である蛋白質の機能、構造を調べる事が最重要課題の一つである。この目標に向けて、いわゆる「蛋白質3000プロジェクト」などの国家的プロジェクトが進行している。それは、X線結晶構造解析やNMRによって実験的に構造を決定しようというものである。一方、Anfinsenによって明らかにされたように、蛋白質の天然構造は自由エネルギー最小の構造であり、したがってこの原理に基づけば、アミノ酸配列情報(と溶媒条件)によってきまる自由エネルギー最小構造を探索することで蛋白質の立体構造、ひいては機能が理論的に決定できるはずである。このような立場から理論的に蛋白質の立体構造を予測しようと言う挑戦は50年も前から続いているが、未だに解決に至っていない。
 しかし、長い間この問題はほとんど解決不可能な問題だと考えられてきたが、90年代後半から、解決の可能性が現実のものとなってきた。それは(1)既知構造データの増大、(2)蛋白質フォールディングの理論の進展、および(3)計算能力の飛躍的向上に基づいている。私たちは、上の3つの要素を十二分に利用して、立体構造予測問題に真っ向から取組んできた。(2)のフォールディング理論に基づいて、蛋白質の相互作用モデルをすべて自作し、そのパラメータを、(1)の既知構造データベースを使った学習アルゴリズムによってチューニングする方法の開発などを行ってきた。(3)の計算能力については、ベクトル計算およびパラレル計算を利用してきた。しかし、これからはパラレル計算から、グリッド計算の時代になろうとしている。立体構造予測を、大規模に、効率よく行うために、グリッド計算技術を最大限に利用する手法を探るのが、本課題の目標である。
蛋白質の立体構造予測問題は、計算科学的には、条件付最適化問題の応用と考えることが出来る。広い意味の条件付最適化問題においてグリッド計算環境を如何にしてうまく利用することが出来るか研究し、利用するためのツールの開発などを進める。また逆に、最適化問題にうまく利用できるためにグリッド基盤技術にどんな改良が要求されるかなど、応用の立場からグリッド基盤システムへのフィードバックをかける事で、より使い易いグリッドシステムの開発を手助けする。

2002年度の研究計画と研究成果(PDF)

論文発表
  • Yoshimi Fujitsuka, Shoji Takada, Zaida A. Luthey-Schulten, and Peter G. Wolynes, Optimizing Physical Energy Functions for Protein Folding, Proteins: Structure, Function, and Genetics,in press(2003)
  • Wenzhen Jin, Ohki Kambara, Hiroaki Sasakawa, Atsuo Tamura, and Shoji Takada, De novo design of foldable proteins with smooth folding funnel: Automated negative design and experimental verification, Structure, 11, 581-590 (2003)
  • 高田彰二、タンパク質の立体構造予測―粗視化モデルによるアプローチ、化学フロンティア、8、98-109 (2002)
口頭発表
  • 高田彰二、タンパク質の大域的サンプリング:モデルの粗視化と拡張サンプリング、ITBL生体分子シミュレーションワークショップ(京都)
蛋白質相互作用エネルギー関数の改良と再学習へむけて
グリッドコンピューティングによって、数十の蛋白質についての大規模構造サンプリングを行うことで、従来得られなかった規模とクオリティの非天然構造セットが得られる。これは、非天然構造データベースとして保存し、次世代のパラメータチューニングに利用することができる。

既に述べたように、モデルのパラメータは、既知構造データベースを使った学習アルゴリズムによってチューニングできる。その際、天然構造(正例)と非天然構造(負例)とを区別できるようにパラメータをチューニングすることに注目する。つまり、得られるパラメータは、天然構造データとともに、非天然構造データセットにも依存する。より天然構造と“見間違うような”非天然構造が沢山おさめられたセットを持つほど、最適化されるパラメータのクオリティは向上すると考えられる。ある世代のパラメータを使ってグリッドコンピューティング分子シミュレーションによって得られた大規模な非天然構造セットは、次世代のパラメータを得るのに利用できる。このようなスパイラル上のチューニングを続けることが今後の課題となる。

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