リーダー  赤澤堅造 (大阪大学大学院情報科学研究科 教授)
  北岡裕子 (産官学連携研究員)

 生体組織のシミュレーションが、将来の医療、特に、診断、治療、臨床治験などにとって有用になると期待されている。先進的な高度医療機関だけでなく、地域の一般病院でも、高精度の診断(大容量データの解析)と治療予測(シミュレーション)が実施できるように、コンピューティンググリッドシステムを開発する。
具体的な研究テーマは2つである。

(1)股関節手術計画支援のためのグリッドシステム構築に関する研究

本計画の目指すところは、以下の通りである。股関節手術の術前計画を目的として、各病院の端末計算機から、遠隔の手術計画センター(大阪大学)にインターネットブラウザなどを利用してアクセスし、さらに、センターからグリッドコンピュータを利用することにより、関節動態の解析や力学解析を含む高度な術前シミュレーション手術計画の最適化が可能なシステムを開発する。さらに、本システムを、大阪大学以外の病院からもアクセスできるように整備することをも企図している。そうすれば、一部の先端的研究病院だけでなく、あらゆる病院で最先端の手術計画システムを導入可能になる。本研究グループでは、大阪大学病院のCTおよびMRI装置により得られる3次元医用画像から、各患者の股関節の3次元形状モデルを作成し、対話的処理により人工関節の選択・設置計画などの手術計画を行うシステムを開発し、臨床適用している。このシステムをベースとして、手術前後の関節形態、動態、および力学的状態をシミュレーションすることにより、術後関節機能の側面から、手術計画の最適性を客観的かつ定量的に評価できるシステムに拡張する。実効ある形に本シミュレーションシステムが構築されるために、グリッドシステムという立場からは、図1に示す如く、
(1)医用画像を取得し、ネットワークを介して、画像を送信する。
(2)専門医により、対話型に計算をセンターへ依頼する。
(3)取得した医用画像をもとにして、股関節の3Dモデルを構築する。
(4)カップの骨盤への設置を決定する最適化計算を担当する。
(5)ステムの大腿骨への設置を決定する最適化計算を担当する。
(6)画像処理のjobが送信されてくるたびに、高速に医用画像の並列処理を行い、可視化結果を転送する。
(7)専門医による判定の結果、追加計算をセンターへ依頼する。
図1.股関節手術計画支援のためのシミュレーションシステム

(2)換気障害の診断と治療効果予測のためのグリッドシステム構築に関する研究

気管支喘息、肺気腫、肺線維症など、換気障害をおこす呼吸器疾患では、肺活量や1秒量など、スパイロメトリーで判明する換気障害だけでなく、肺内に空気がどのように分配されているか、すなわち、換気の3次元的な分布がきわめて重要である。現在おこなわれている換気分布検査はいずれも超高額の薬剤や重装備の設備を要し、また、解像度や再現性に問題があることから、研究段階にとどまっている。
本研究では、換気障害の多時相3次元画像データを用いて、換気分布の解析とシミュレーションを行ない、治療効果を高精度に予測する手法の確立を目指している。
医用画像データは、画像取得装置の発達に呼応して年々増大の一途を辿っており、現在の最新鋭CT画像で得られる胸部画像は約250MBである。呼吸相の異なる画像を数セット撮像したり、より高解像度の撮像がなされれば、患者一人当たり、容易に1GBを超える。その画像解析とシミュレーションに要する計算コストは膨大である。グリッド技術の導入によって、臨床医学が受ける恩恵は計り知れない。具体的には図2に示すシステムの構築を目指している。
図2.換気障害診断と治療効果予測のためのシミュレーションシステム
2002年度の研究計画と研究成果(PDF)

論文発表
  • 北岡裕子、上甲剛、肺の4次元モデルを用いた換気分布シミュレーション−換気障害の治療効果予測を目指して、「医学のあゆみ」43巻 2003年
口頭発表
  • 北岡裕子、第11回バイオフィジオロジー研究会  (2003年2月22日、京都)
  • 北岡裕子、第3回医学数学シンポジウム(2003年3月5日、大阪)
  • 北岡裕子、第43回日本呼吸器学会 (2003年3月13日、福岡)
(1)股関節手術計画支援のためのグリッドシステム構築に関する研究
グリッドの実現を目指して、以下の計算拠点の間における情報のやりとりおよび計算を高速化するための検討を行うとともに、各ロケーションにおけるヒューマンインターフェースを考慮したシミュレーションシステム構築を行う。

具体的には、
(2)専門医により、対話型に計算をセンターへ依頼する。
(4)カップの骨盤への設置を決定する最適化計算を担当する。
(5)ステムの大腿骨への設置を決定する最適化計算を担当する。
(6)画像処理のjobが送信されてくるたびに、高速に医用画像の並列処理を行い、結果を転送する。
(2)換気障害の診断と治療効果予測のためのグリッドシステム構築に関する研究
 2003年度は、臨床画像の解析手法をグリッド化することを目標とする。具体的には、構造マッピングと換気分布計算である。両者は同一画像データを用いるものの、アルゴリズムは全く異なり、計算手順も独立なので、異種分散処理の対象となる。

 構造マッピングに関しては、肺と気管支の領域抽出手法が既存ソフトウエアにすでに実装されているが、細い気管支の抽出が不十分であるため改善する必要がある。また、気管支が空気を供給する領域の決定には、肺血管のマッピングが必要である。肺血管認識技術はすでにいくつかの研究グループによりアルゴリズムが開発されているので、その実装と必要な改良を目指す。構造マッピングのための画像処理は、気道の木構造に即した並列処理が可能である。吸呼気CT画像の位置あわせ(レジストレーション)による換気分布計算も画像の配列に応じた並列処理が効果的ではあるが、完全の独立な並列計算ではないため、グリッド環境に適した計算手法を開発する必要がある。

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