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MEG projectチームの最終目標は、ヒトの脳機能を解明することにある。一般に知られているように、ヒトの脳は肝臓や肺などの他の器官に比べて複雑である。そのため、脳科学においても科学技術の発展はめざましいが、いまだに個々の生理現象すら説明できていない現状がある。
工学における目標は、最新のインターネット技術を理論的に証明するだけでなく、実際科学の視点からも行う。最近のインターネット技術の発展はめざましいが、これらの技術は個々に開発が行われているという現状がある。こういった状況はインターネット技術の複雑性を増大させるだけでなく、科学全体の発展を妨げることにもつながる。
本プロジェクトでは、アプリケーションの観点から、MEG(先進的脳機能測定装置の 1 つ)データ解析という医学的にも期待の大きい問題に取り組んでいる。具体的には、グリッドやIPv6などの最新インターネット技術を応用することで MEG データ解析環境を構築している。さらに、脳活動により生成される複雑な信号を実際に解析し検証するため、われわれが提案・開発している環境上で、最新の信号解析技術を利用することを計画している。
近年の計測技術の発展により、科学計測機器から収集されるデータ量は増大を続けている。MR・CT 画像・MEG などの医療データはその一例である。近年のプロセッサ技術は高速計算を実現しているが、データ量の増大はプロセッサ技術の向上以上の計算時間増大をもたらしている。この現象は医療分野だけでなく、他の科学分野でも問題となっている。
ネットワーク技術は日増しに改善しており並列計算が可能となったが、医療分野においては、医療データ解析は単一の計算機上で行われているのが現状である。近年は病気の早期発見が重要となってきているが、計算環境の不足から対処できる病気でも適切な治療が実施されていないという現状がある。
境界領域研究の重要性が以前より意識されるようになり、地理的に分散した異なる組織間における仮想研究環境が必要となってきている。この理由は以下の 3 つの事実から説明できる。

  • 知識と技術の分散

  • 現状の医療では、いずれの分野においても高度な知識が必要である。例えばわれわれの想定する環境でも、MEG データ解析には複雑な知識や多大な経験を必要とする。信号処理技術が非常に複雑であるため、適切な解析のためには医学の知識が必要であり、大量の計算機を統合するためには計算機に対する高度な知識と技術が必要である。しかし、これらの専門家が同一組織に所属している場合はほとんどなく、異なる組織に所属している場合がほとんどである。例えば、医師が病院や医学研究機関に所属しており、並列計算の詳しい知識を持った計算科学者は工学研究機関に所属しており、信号処理の専門家は大学の研究室に所属しているといった場合が考えられる。このような状況から、これらを含んだ総合的な脳科学の共同研究が必要である。

  • 資源の分散

  • 計測技術の発達が計測装置の精度や時空間的分解能を改善しているが、これは一方で計測機器を高価にしている。望遠鏡、加速器などはその 1 例であり、MEG も例外ではない。医療機器は一般的に高価であるが、MEG は一般的に予想する以上に高い。脳科学分野で有望視されながらも全世界に小数しか存在しない要因の 1 つは、高額な価格や維持費である。また、高度な計算資源も高価であり、高性能な可視化計算機やスーパーコンピュータは地理的に複数の組織に分散している。われわれが属しているサイバーメディアセンターのように、計算資源を集約している組織は非常に稀である。

  • ネットワーク技術の発展

  • 現在のネットワーク技術の発展は、ギガビット級のデータを数秒で転送することを可能としており、数年以内にテラバイト級のデータを数秒で転送できるようになるであろう。また、ネットワーク・トラフィックの優先度制御は QoS(Quality of Service)と呼ばれており、これらの技術の発展は次第に向上すると予想されている。しかし、これらの技術は次世代アプリケーション利用の段階まで移行できていない。つまり、実社会に適用可能でありながら実験段階にあると言える。これらのネットワーク技術は、利用の実証を通じて前述の地理的分散の解決が発展すると期待されている。

    このような変化は医学分野においても例外ではなく、近未来の医療データ解析には仮想研究環境が必要である。

    上図は現在開発中の MEG システムの概略を示したものである。MEG データ解析システムはインターネット上に分散した以下の 3 つのモジュールから構成されているが、仮想研究環境を想定しているため、これら 3 つのモジュールが地理的、また多組織的に分散している状況を仮定している。

  • データ取得モジュール

  • MEG データは、64 センサ・標本化周波数 1 kHz の 1 時間計測で 0.9GB のデータ量にもなる。現状では、このデータは光ディスクや磁気媒体に保存・管理され、研究者間で手渡しされている。このような状況は、データの一貫性を乱し、データの紛失や患者のプライバシ漏洩にもつながる。さらにデータ量が増加するにつれて、単一の光ディスクに保存することが難しくなる。
    この問題を解決するために、われわれはデータ取得モジュールからインターネットを通してデータを直接医療データベースに蓄積し、同時に計算モジュールに転送することを考えた。これによりシームレスなデータ解析が可能となり、医師が診断を行うときには解析結果を得ることができる。この技術を応用すれば、リアルタイム解析も実現することができる。
    さらに、ネットワークの利用を考慮すると、世界規模の医療データベースを構築することも可能である。このようなデータベースは、これまでにない大量の医療データが得られるため、統計的調査において非常に有用であり革新的である。1 人暮らしの高齢者の数が増加しているような現代の高齢化社会において、医療の重要性はさらに高まってきている。このため、医師がどこからでも医療情報を発信できるようにする必要がある。
    しかし、医療データはプライバシを含むため、セキュリティに細心の注意を払う必要がある。つまり、インターネットを転送する際の外的脅威から医療データを守る必要があるために、最新の暗号化やネットワーク技術を駆使する必要がある。われわれのプロジェクトでは、 PKI(Public Key Infrastructure) ・ IPSec(IP Security) ・SSH(Secure Shell)などの技術を適用することにより、安全なデータ転送環境を実現している。

  • 計算モジュール

  • MEG データ解析は、後述のように膨大な計算量を必要とするため非常に時間を要する。できるだけ高速に解析するためには膨大な計算能力を必要とし、これらを実現するために、われわれはインターネット上の膨大な計算能力に注目している。現在、インターネット上に多数の計算機が接続しており、例えば一般的なパーソナルコンピュータからスーパーコンピュータまで広範囲の計算機が接続されている。しかし、これらの計算機は全時間稼働しているわけではなく、常に負荷が高いわけではない。われわれの着想は、このようなインターネット上の計算機を有効活用し、現実的な時間で高速に詳細なデータ解析を実現することにある。したがって、われわれのシステムの計算モジュールは、ネットワーク・トラフィックやプロセッサの負荷に応じて数や構成が変化する動的な特性を持っている。

  • 入出力モジュール

  • 入出力モジュールの主なはたらきは、ユーザの意志をシステムに伝達し、直感的に理解のしやすい可視化された形で解析結果を返すことである。これを実現するためには、扱いやすい GUI(Graphical User Interface)と直感的な可視化の手法が重要である。
    われわれの可視化のアプローチは、MR や CT などの解剖学的画像に解析結果を重ね合わせる手法である。これには、3 次元の画像を再構成する必要があり、同時に解析結果をいかに表示し重ね合わせるかも議論する必要がある。

    われわれのシステムを実現するための基本的要素として Globus ツールキット を利用した。このシステムでは、Globus が前述の 3 つのモジュールを統合する役割を担っている。 Globus ツールキットは、インターネットに接続するパーソナルコンピュータや医療機器などの多種多様な資源への統一的なアクセスや、統一的なデータ転送を可能にするために開発が行われている。 Globus の目標はわれわれが実現しようとしている環境そのものであり、 Globus を利用することにより、互いに異なる組織に属している多様な資源を統合することを容易にすることができる。
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