大阪大学 大学院情報科学研究科
サイバーメディアセンター
蛋白質研究所
データグリッドでゲノム創薬を支援
− 新薬開発に役立つグリッド技術を開発 −
1.概要
大阪大学では、大学院情報科学研究科およびサイバーメディアセンター、蛋白質研究所が中核となってグリッドコンピューティング技術を用いたライフサイエンス分野向けIT基盤の研究開発を行っているが、この度、重要な成果が得られたので報告する。
まず、第一に、ゲノム創薬で必要となる複数の異分野データベースを単一のデータベースのように扱える技術をデータグリッドにより実現した。ゲノム創薬では、ヒトゲノム解析から得られる大量の遺伝情報を、薬物候補となる化合物の情報と結びつけることで生じる膨大な組み合わせの中から、有効な薬物候補を探索することが求められている。しかし、これらの情報は現在多種類のデータベースに分散して格納されており、それらを高速に検索する技術の開発がゲノム創薬の成否の鍵をにぎる重要な課題とされていた。今回開発された技術は、グリッドコンピューティング技術の一種であるデータグリッド技術OGSA-DAIをベースに、疾患DB、ゲノムDB、蛋白質DB、化合物DBなどの多種類の分野の異なるデータベースを分散された状態のままで連携させるものであり、利用者が各データベースの所在を意識することなく効率的に検索を行える。本技術は、大量のデータから創薬に必要な情報の自動抽出を可能にし、創薬や機能性食品の開発プロセスにおける必須の技術になりうるものである。
また、この他にも、コンピュータ上で薬物候補を絞り込む手法であるin silicoスクリーニングの中核技術となる複数のシミュレーション用ソフトウェアをグリッドで統合するBioPfugaや、安全なファイル共有を可能にするGSI-SFS、バイオ向けグリッドポータルシステムGUIDEなどの創薬支援に有用なグリッド基盤技術を開発した。
 これらの成果は、11月16日から米国アリゾナ州フェニックスで開催されるSuperComputing2003で発表する予定となっている。なお、本研究は、文部科学省科学技術振興費主要5分野の研究開発委託事業のITプログラム「スーパーコンピュータネットワークの構築」の一環として実施された研究成果の一部である。
2.詳細説明
異分野のデータベースを1つに見せるデータグリッド技術を開発−BioDataGrid
複数のバイオデータベースの連携検索は次世代バイオ関連産業の大きなテーマの1つである。バイオデータベースはデータ量が膨大である上に、その種類は多岐に渡っており、かつデータベースはネットワーク上に分散している。ゲノム創薬では、ゲノム情報から病気の原因となる分子(多くは受容体などのたんぱく質)を同定し、それと結合して作用する薬物を探索する必要があるが、この過程で多数のデータベースの情報を必要とする。これまでに、ネットワーク上に分散したデータベースを連携検索する試みはなされているが、ゲノム創薬で必要とされる医学、生命科学、薬学、化学などの異分野のデータベースでは、それぞれ分子などの名称や表現方法が異なるため、そのままでは各データベースの情報を結び付けられない。そこで、我々は、異なる分野の情報の相互の関連性を表すメタデータにより異分野の情報を相互に結び付ける方法を開発した。メタデータを利用することで、ネットワーク上に分散した多数のデータベースを仮想的に共有するデータグリッド技術により、異分野のデータベースを連携させることに成功した。これにより、ゲノム創薬を対象に、ネットワーク上に分散した多数の病気、ゲノム、たんぱく質、薬物化合物のデータベースを、あたかも一つのデータベースであるように検索できるが、このようなシステムは世界的にも例がない。このシステムを利用すれば、例えば、薬物の標的となるたんぱく質の情報を入力として与えるとそれと作用する薬物の候補を探索して提示することができ、これについて11月に米国フェニックスで行われるSuperComputing2003で実際にデモを行う予定である。


薬物候補探索に有効なシミュレーション用グリッド基盤技術の実現−BioPfuga
in silicoでの薬物候補探索の中核技術となる分子軌道法、分子動力学法にはいくつかの手法があり、それぞれ一長一短の特長をもっている。それらをグリッドで統合して、各手法の長所を組み合わせることで、in silicoスクリーニングの精度をあげることができる。今回、我々のグループでは、グリッド技術を用いた連成システムを開発することで代表的な3種類の手法を高精度に結びつけることに成功した
 
安全で使いやすいグリッド基盤技術の開発
利用者が安全にデータベース等を利用できるように、セキュアファイルシステムGSI-SFSを開発した。また、このファイルシステムを組み込んだグリッド用ポータルソフトウェアGUIDEを開発した。SC2003では、このシステムを使って、日本と中国、シンガポールの3カ国を結んでデータ、プロセッサ資源の共有を行うデモンストレーションを実施し、開発したグリッド基盤システムの有用性を示す予定である。
図1 構築するグリッド基盤の概念図
3.今後の展開
今後は、データグリッド技術を中核に、バイオや創薬分野向けグリッド基盤技術の研究開発を進め、次世代のIT基盤技術の実現に結びつけていく。


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