GGF8 & HPDC-12 参加報告
期間 : 2003年6月22日(日)〜6月27日(金)
場所 : 米国ワシントン州シアトル
報告者: 蟻川 浩 (奈良先端科学技術大学院大学情報科学センター)
GGF8 & HPDC-12 概略
High Performance Distributed Computing(HPDC)はIEEEが主催するHPC分野における国際会議の1つである。HPDC-12では、2件のkeynote speech, 5件のinvited speech, 25件のpaper session, 19件のPoster and Demonstration, そして4件のWorkshopで構成された。
Global Grid Forum (GGF)はグリッドをベースとした技術の標準化を行うための会議であり、様々な角度からグリッド技術の標準化を行っている。GGFでは7つのAreaで構成され、それぞれのAreaはWorking Group(WG), Research Group (RG), BOFで構成されている。
GGF8では、45 sessions(内訳: 21 WGs, 14 RGs, 10 BOFs)が開催された。また、8 Tutorials および 18 Plenary Programs(内訳: 7 keynote & invited talks, 6 panels, 3 debates, 2 spotlights) も開催されていた。GGF8では大学や企業から700人を超す参加者があり、グリッド技術の標準化への関心の高さが伺える。
GGF8 & HPDC-12 参加意義
グリッドの研究に携わっている私にとって、GGFおよびHPDCへの参加は、今後のグリッドの方向性および最前線の研究内容を知ることができる格好の機会である。
グリッドがインターネットと同様に社会的なインフラとしての期待を高める現在、仕様策定を行うGGFへの参加は、今後のグリッドの方向性を知るだけでなく、グリッドの研究に関わる上で有益な情報を得られる場である。
また、HPDCへの参加は最新の研究成果がkeynote speechやpaper sessionなどの発表によって知ることができる。今後どのような形で研究を進めるべきかの参考になる。
興味を持った発表等 (HPDC-12)
25件のpaper sessionのうち、私が興味をもった以下の3点について報告する
1. Distrubuted Pagerank for P2P Systems
2. Squid: Flexible Information Discovery in Decentralized Distributed Systems
3. Adaptive Polling of Grid Resource Monitors Using a Slacker Coherence Model
1. Distributed Pagerank for P2P Systems
Web検索システムGoogleに採用されているPagerankと呼ばれるアルゴリズムをP2Pシステム上に実装し、その評価について発表された。中央集権的なシステムであるGoogleの検索エンジンに対し、発表者らはPagerankアルゴリズムを分散処理できるように拡張し、ホモジニアス環境におけるシミュレーション評価を行っている。その結果、Pagerankのqualityを保ち、高速にかつトラフィックの少ない検索が可能だと評価している。
Pagerankは固有値問題を解くことに帰着するが、それを分散処理で実現するようにアルゴリズムを変更したことが興味深い。GoogleのようなWeb検索システムが持つ膨大なデータをP2P Computing環境で検索処理を行うことで処理速度の高速化が期待できる。
2. Squid: Flexible Information Discovery in Decentralized Distributed Systems
P2P向け計算機資源探索システムSquidに使われる資源探索アルゴリズムの設計およびシミュレーションによる評価について発表された。SquidではHilbert Space-Filling Curveとよばれるアルゴリズムを用いて、要求する資源のQueryを入力し、資源探索を行う。このアルゴリズムは多次元空間の情報を1次元空間の情報に置き換えるため、ワイルドカードを用いた高速検索が可能になる。
私は提案されたアルゴリズムに興味を持っている。グリッド環境における計算機資源の検索方法は条件に満たされた計算機を的確にかつ高速に検索することが必要である。このアルゴリズムを何らかの形で適用することで短時間に的確な計算機資源の検索ができると考えている。
3. Adaptive Polling of Grid Resource Monitors Using a Slacker Coherence Model
Slacker Coherence Modelを用いたグリッドの資源監視方法について、資源監視シス テムの設計および計算機資源の予測手法の比較検討した結果について発表された。
本発表ではlagrange補間を用いることでノードの監視回数を減らす効果があることを述べられている。少ない監視データから計算機の状態を把握できることを示したよい例であり、計算機資源監視に対して予測手法を適用することが重要であると言える。
興味深かったSession等 (GGF8)
冒頭で述べたように、GGF8では45のsessionが開催された。現在、私はResource Managementについて興味を持っているため、GGF8ではScheduling & Resource Management(SRM) Areaに所属しているWG等のSessionを中心に、興味のあったWGに参加した。
本報告では、SRM Areaの中のDRMAA, GESA, RUSの各WG, Information Systems and Performance(ISP) Areaの中のNM WGのSessionについて報告する。
DRMAA WG
Distributed Resource Management Application API WGでは、分散資源管理を行う上で必要なJob投入などを行うための高機能APIの策定を行っている。DRMAA-WGではすでにC言語版のAPIがDocument化されており、その説明および実装例について議論された。今後はC++, Java, Perl, Pythonなどの言語に対するAPIの仕様策定およびDRMAA API Ver.2.0 について議論される。
私は資源管理について研究テーマを掲げているが、DRMAA API Ver.1.0は内容が洗練されているため、これに沿った形で資源管理システムを実装しようと考えている。
GESA WG
Grid Economic Services Architecture WGでは経済モデルを用いたグリッド環境を利用するための枠組みについて議論されている。GGF8ではGESAの概略、Grid BankingSystem(GBS)およびChargeable Grid Service (CGS)の提案およびGBSやCGSのプロトコルやGBSのメカニズム(特に認証をどうするか)が議論された。
現時点のグリッドは限定されたコミュニティのみに計算機資源を提供しているため、利用者の立場では敷居が高い。GESA WGが提案する枠組みは利用者へのグリッド環境利用における敷居を低くするものだと私は睨んでおり、今後の展開に興味を持っている。
RUS WG
Resource Usage Service WGではOGSAの枠組みの1つとして資源情報の記録等に関する議論を行っている。GGF8ではRUSの仕組み、プロトコル、オペレーションについて議論された。(特にプロトコルについて質疑応答があった。)
個人的にはGESA WGとの関連が強い印象を受けた。(chairの1人がRUS, GESA両方を担当しているからというものあるが、)資源情報および資源を貸借するための情報の記録について議論されているため、GESA WGで議論されるべきではないかと感じた。
NM WG
Network Measurement WGではグリッドにおけるネットワークの測定方法などの標準化などを行っている。このWGは比較的新しく発足したWGである。GGF8ではいくつかのツールの紹介とUML Diagramの議論がなされた。
近年、資源管理を行う上でネットワークに関する情報を収集し、それを反映させることは必須だと思っている。グリッドにおける情報収集、活用の仕様策定など、今後の展開に注目していきたい。
今回、いくつかのツールが紹介されたが、その中でもSNMPプロトコルを使って情報収集するMONALISAというツールに興味を持った。
おわりに
GGF8およびHPDC-12に参加したことは様々な意味で良い刺激を受けた。まず、HPDC-12で最新の研究成果を聞き、自分の研究の方向が見えた。特に、本報告書で挙げた3点のうち2点は資源管理および探索に関する研究成果であり、自分の研究の目指す方向は正しいことがわかった。また、GGF8の仕様策定に関しては技術調査だけではなく、グリッドを利用する方々の観点を積極的に採り入れた上で仕様策定しているように見受けられた。グリッドの利用価値を高めようとする雰囲気を感じとることができた。
今回はGGF8およびHPDC-12に参加するという形だったが、グリッドに関する研究に携わる者としては、GGFに参加できただけでも意味深いものがある。GGFの場で積極的に議論に参加できるようになりたいと思っている。また、自分の研究成果をHPDCの場で発表したいと考えている。そのための精進も欠かせないと思った。
これは私自身の課題であるが、GGFのSessionに参加するためには、予習は勿論のこと語学力の訓練の必要性を感じた。今後もGGFの参加を通じて、積極的にグリッドの研究開発に携わっていきたいと考えている。

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