大阪大学 サイバーメディアセンター
中国科学院微生物研究所 信息网絡中心
− アジアを結ぶバイオグリッド研究基盤の実現 −
大阪大学と中国科学院との間でバイオリサーチ用グリッド連携を本格展開
1.概要
大阪大学サイバーメディアセンター(以下、阪大サイバー)は、独自に開発したグリッドコンピューティング技術の成果をもとに、中国科学院微生物研究所信息网絡中心(Institute of Microbiology, Chinese Academy of Sciences:以下、微生物所网絡中心)と共同で、バイオリサーチのための国際的なグリッド研究基盤を構築する。研究基盤の構築には、次世代ITと目されるグリッド技術とIPv6ネットワーク技術(注1)を応用し、阪大サイバー所有の高性能クラスタシステムと、微生物所网絡中心のクラスタシステムを統合し、データベースの相互利用やバイオ分野でのデータの共同解析等を行えるIT環境を実現する。その手始めとして、わが国と中国との間でグリッド環境を構築し、中国の生物資源データベースを検索するシステムを構築した。
なお、本共同研究のIT基盤部分には、文部科学省ITプログラム「スーパーコンピュータネットワークの構築」で開発された研究成果の一部が活用されている。
2.詳細説明
(1)各研究機関の特徴
阪大サイバーでは、下條真司副センター長を中心として文部科学省ITプログラム「スーパーコンピュータネットワークの構築」(通称バイオグリッド・プロジェクト)を5ヵ年プロジェクトとして推進しており、バイオ研究のためのグリッド基盤技術の研究開発を行っている。一方、微生物所网絡中心は、馬俊才主任の指導の下、中国国内の生物関連データベースを構築する国家プロジェクトにおいて中核的役割を担っている。中国は地球上の70%以上の生物種を保持する、いわゆる巨大多様性国家(Megadiversity country)の一つであり、固有種の情報を多く含む生物資源データベースは、世界各国の研究者らの注目を集めている。
(2)グリッド基盤構築で可能になること
今回の共同研究では、阪大サイバーの開発したグリッド基盤技術を用いて、阪大サイバーと微生物所网絡中心のクラスタシステムを統合することで、中国科学院生物系研究機関の保有する中国固有の生物種や生物標本に関するデータベースと、大阪大学蛋白質研究所で運営管理されている蛋白質の立体構造データベースPDB(注2)等の相互利用が可能になる。さらに、BLAST、CLUSTALW(注3)等のバイオ情報解析用アプリケーションの高速実行を可能にするグリッド研究基盤を構築予定である。
(3)グリッド基盤構築のための技術的特長
この研究基盤では、阪大サイバーで開発されたグリッド上での安全なファイル共有システムである GSI-SFS(注4) とグリッドシステム用ポータルシステム GUIDE(注5) がオリジナル技術として組み込まれる。GSI-SFSの利用により、阪大サイバーと微生物所网絡中心に配置されたクラスタシステム間のファイルシステムの相互収容がユーザレベルで安全かつ容易に制御可能となり、双方の研究者は相互のデータベースを利用した研究をすすめることができるようになる。
さらに、ポータルシステムGUIDEの利用によりグリッド技術の複雑な機構を隠蔽し、グリッド技術に詳しくない研究者でも阪大サイバーの保有するバイオグリッド基盤システム(注6)と微生物所网絡中心のクラスタシステムを利用して、従来非常に長い計算時間を要していたデータ解析などの処理を短時間で完了することが可能となる。
研究基盤実現に向けて、すでに両機関間での研究交流と実証実験が開始されており、本年4月には微生物所网絡中心から阪大サイバーへ研究員が派遣され、グリッド技術研修が行われている。また、現段階では、微生物所网絡中心と阪大サイバーを結ぶ小規模グリッド・テストベッドが構築され、上述したセキュアファイルシステムGSI-SFS、ポータルシステムGUIDEを用いた実証実験が積極的に行われている。
このように構築される研究基盤を通じて、双方の計算機資源とデータ資源が両国の研究者により共有利用されることでアジア独自の研究の進展が期待できる。
なお、GSI-SFSとGUIDEおよびグリッド基盤構築に用いられた技術は、文部科学省科学技術振興費主要5分野の研究開発委託事業のITプログラム「スーパーコンピュータネットワークの構築」の一環として実施された研究成果の一部である。
図1 構築するグリッド基盤の概念図
3.研究開発体制
    大阪大学サイバーメディアセンター(大阪府吹田市)
    中国科学院微生物研究所信息网絡中心(北京)
4.今後の展開
2003年度中には、この研究基盤を次世代インターネットプロトコルであるIPv6ネットワークへ移行する予定となっている。また、大阪大学ではこのグリッド基盤ネットワークを発展させたアジア各国の共通研究インフラの構築を目指して展開を図っていく予定である。韓国、シンガポールとの提携を視野に入れた共同研究も既に動き始めており、これが実現されれば、先端バイオ研究分野で先行する欧米に対して、アジアの独自性を活かした研究成果による巻き返しも期待できる。
【 用語説明 】
注1) IPv6ネットワーク技術
  インターネットの次世代通信プロトコルとして開発された技術。これを使うことでより安全で高機能な通信環境が実現できる。
注2) PDB ( Protein Data Bank )
  蛋白質の立体構造データベース。米国、欧州、日本の3局で分担して運用管理を行っており、大阪大学蛋白質研究所が日本およびアジアの運用拠点となっている。
注3) BLAST、CLUSTALW
  バイオ情報解析用の代表的な解析ツール。BLASTは核酸やアミノ酸の配列情報データベースに対して相同性検索を行う。CLUSTALWは核酸やアミノ酸の複数個の配列データから共通部分を見つけ出すのに使われる。
注4) GSI-SFS ( Grid Security Infrastructure-Self-Certifying File System )
  阪大サイバーで独自に開発されたグリッド技術を用いたセキュアファイルシステム。
注5) GUIDE ( A Grid User Interface to the Distributed Environment )
  利用者がグリッドシステムを意識せずに利用できるようにするためのユーザインターフェイス。
現バージョンはWebのインターフェイスを流用しているためウェッブポータルシステムとも言える。
注6) バイオグリッド基盤システム
  阪大サイバーが保有するNEC Blade Serverをベースとした大型クラスタシステム。
トータルプロセッサ数180個以上を有する。


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